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木藪日記
第93回
犠牲の果て

依頼者: 妻(40歳)
対象者: 夫(45歳)
イラスト
数年前のことです。
依頼の電話が鳴り、開口一番「数日前、隣で寝ていた夫が消えたんです」と言われた。
話を聞いてみると、ご主人は財布だけ持って失踪したらしい。
所在が確認できたのは、失踪から1ヶ月後のことである。
発見の決め手となったのは、財布と一緒に持って出た失踪当日の新聞である。
そこに小さく掲載されていた「住み込みオーケー・電気回線工事」の求人広告。
失踪したご主人は、そこで働いていた。
失踪前の悲劇は、労組の役員に推された時から始まったらしい。
ご主人は、頼まれると断れない性格とのこと。
渋々引き受けたが、折からの不況で労使交渉は常に険悪ムード。
ある日突然、「会社の金を使い込んでいるだろう」ご主人は重役から横領疑惑を突きつけられる。
まったく身に覚えのないことだが、偽装された証拠書類が用意されていた。
その重役に「労組を抜けろ」と脅された。
さもなければ、「横領で懲戒解雇する」。
労使の仲間からは「途中で投げ出すような無責任な行動はやめろ」と突き上げを食らった。
失踪直前には、矢面に立たされたご主人。
板挟みの夫は社内で孤立し、次第にノイローゼ状態に・・・・。
依頼者と一緒に、ご主人が住み込みで働いている会社に出向く。
全てのストレスから解放されたご主人は、そこで新しい仲間と談笑していた。
その後、妻に説得されて自宅に戻って来た。
今は生き生きと、失踪時に勤務していた会社に自宅から出勤しているそうだ。
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