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木藪日記
第22回
偽りの婚約者

依頼調査: 所在調査
対象者: 20代女性
イラスト
<概要>
「婚約者が突然いなくなったんですが……」と訪ねて来たのは、大手メーカーの経理マン(29)だった。七三分けの髪型に紺色のスーツという、まじめを絵にかいたようなタイプ。「1週間前からケータイが通じないんです。自宅はもぬけの殻だし」と悲痛な面持ち。
彼女の前の住所とケータイ番号などから所在を突き止めることはできた。が、不審な点があったので、彼を事務所に呼び出した。
「婚約者の年齢は何歳でしたっけ?」と私。
「20歳……いや21歳かな」
「彼女の実家は?」
「茨城……と思います」
実際は24歳で実家は神奈川にある。当然知っているはずのことを知らない。その点を問い詰めると、彼はしどろもどろになり自分のウソを認めた。
「実は……彼女は私が通っていた風俗店の子で……突然辞めちゃって」と彼。
彼女に優しくされて舞い上がったか、肉体とテクにおぼれたか。いずれにせよ彼女の住所は教えられない。ストーカーまがいの依頼には応じられないからだ。
「彼女でなきゃダメなんです」と彼に懇願され、「今は新宿のキャバクラで働いています」という事実だけを明かしておいた。
後日、彼から「見つけました。最初は驚いてましたが、“また会えてうれしいわ”と喜んでくれて」との連絡が。多分、彼女に搾り取られて終わりだろう。
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